研究概要 |
代表的な半導体であるSi,Ge,グラファイトや,有機半導体などでは,伝導電子の持つスピン軌道相互作用が弱く,スピン偏極の情報が格子に伝わらないために,レーザー光磁気Kerr効果(MOKE)などの光学的方法を用いることができない.これらの半導体中での伝導電子スピン偏極(CEP)を測定する実験技術を確立し,新しいスピンエレクトロニクス材料の機能を開発することを目的として,英国理研RAL研究所ミュオン施設に,ミュオンパルスと同期したパルスレーザースピン偏極系を平成19年度に構築し,20年度までにミュオニウムスピン交換反応法の原理を検証した.平成21年度は,蒸着膜から試料への電子注入とスピン注入を検証するために,歪みGaAsを蒸着したSi基板とInGaAsを蒸着したGaAs基板を用いて,次の成果を得ることができた. 1.歪みGaAs/Si系試料についてミュオニウムスピン交換反応実験を行い,磁場依存性,レーザー周波数依存性,レーザータイミング依存性,ミュオン停止位置依存性から,歪みGaAs薄膜で励起された伝導電子が,pn接合を介してSi基板まで注入され,基板全体に拡散する様子を,その時間構造と厚さ方向の分布から確認することができた.しかし,スピン依存性は確認されなかった. 2.比較のためにInGaAs/GaAs試料を作製しミュオニウムスピン交換反応実験を行い,InGaAs薄膜による光電流の周波数依存性は確認されたにも関わらず,GaAs基板への電子注入は確認されなかった. この2つの実験から,予測通り,光励起電子はSi基板中ではGaAs基板に比較して3桁以上長寿命であることが確認された.
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