研究概要 |
ナノ空間に閉ざされた水の特性を、赤外分光スペクトルからその分子振動の温度、相対湿度、圧力変化を通じて研究を行ってきた。これまで、2,3次元的に閉ざされた水を研究してきたが、本年度は1次元的な水を主に取り上げた。こうした水の研究は、燃料電池、触媒、生体物質の機能性などとも関連し、学際的に重要な研究と位置付けられる。しかし、閉ざされた水を系統的に研究した例はなく、本研究は極めて独創的な視点をもつといえる。 有機分子骨格が1次元的チューブ(チューブの直径約1.5nm)を形作り、その内部に閉ざされた水分子が、3層の水和構造を形成する新奇な物質について実験研究を行った。ここに存在する水分子は並進、回転の自由度をもつが、自由水とは特性が大きく異なる。顕微赤外分光スペクトルの時間スケールでみると、ランダムではなく、規則的な配置をとる水ネットワークの形成が明らかになった。そして、これら水分子は、氷、水、水蒸気に近い特性をも併せもつことが判明した。また、マイクロ波による電気伝導率がチューブ方向で極めて大きく、異方的伝導性を観測し、かつ、同位体効果を見出した結果から、プロトン伝導に由来することが明らかになった。これは、現在燃料電池材料として研究が進むナフィオンに匹敵する伝導率である。これまでに報告のない準1次元プロトン伝導が水ナノチューブを媒介として起きていることが判明し、学際的に大変重要な発見といえる。 3層構造の水和状態のうちチューブの中心付近の水分子は、動きやすい性質をもち、取り除きやすいことが最近分かってきた。今後、メタン、二酸化炭素などのガスをこうしたナノ空間の水ネットワーク中に吸蔵させる研究を行っていく。
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