FeCr_2O_4はFe^<2+>の軌道自由度に基づいた立方晶から正方晶への構造相転移を示すことが知られていたが、さらに温度を下げると斜方晶へと構造が変化することを低温X線回折実験により明らかにした。この結果を磁化測定と比較することにより、スピン系のフェリ磁性秩序が軌道の形状を変化させていることが示唆された。さらに定量的な考察によって、スピンの向きが固定された状態では3z^2-r^2軌道よりもx^2-y^2軌道のほうがスピン軌道相互作用によるエネルギー利得が大きいことを明らかにした。この結果、フェリ磁性相で軌道形状が変化すると考えられる。結晶構造や結晶歪みが外部磁場の印加によって受けることが期待できる。詳細な物性測定のために結晶試料の育成を試み、塩化クロムを輸送剤とする化学的気相輸送法での結晶育成に成功した。育成した単結晶試料を用いて、磁揚を立方晶の<100>方位に印加して低温強磁場下の単結晶X線回折実験を行った。その結果、フェリ磁性相では3〜5テスラの磁場によってc軸が磁場方向と垂直に向く強弾性的な応答が発現した。この強弾性分域の変化は磁場を切っても元に戻らないため、磁場掃引による形状記憶効果の発現が期待できる。そこで、ひずみゲージを用いて結晶歪みの外部磁場依存性を測定し、確かに磁気形状記憶効果が生じていることを確認した。さらに、磁化曲線においても、同じ磁場で履歴現象が観測されたことから、この物質のFeイオンの軌道とスピンが強く結合していることがわかった。
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