スピネル型構造のFeV_2O_4は、四面体配位のAサイトにFe^<2+>が、八面体配位のBサイトにV^<3+>がそれぞれ位置する。これらはともに軌道自由度を有する磁性イオンである。この物質のスピンと軌道がどのように秩序化を起こすかを低温X線回折実験により調べた。その結果、約30Kで立方晶からc軸の縮んだ正方晶への構造相転移、約110Kでフェリ磁性転移および正方晶から斜方晶への構造相転移、約80Kで斜方晶からc軸の伸びた正方晶への構造相転移、約60Kで磁化と格子定数の異常、約30Kで正方晶から斜方晶への構造相転移、というように大変複雑な逐次相転移を起こすことが分かった。昨年までに行ったFeCr_2O_4やMnV_2O_4との比較から、130Kの構造相転移はFe^<2+>の強的軌道整列に伴う協同ヤーンテラー歪みと解釈できる。格子ひずみエネルギーの非線形性によって、c軸方向に縮む。一方、V^<3+>の軌道整列がMnV_2O_4と同型ならば、やはりc軸方向に縮む格子ひずみと結合するはずであるが、今回得た結果はそれを否定するものであり、軌道整列パターンが異なる可能性がある。また、構造の逐次相転移と磁化の異常が現れる温度が一致している様子から、磁気構造の逐次相転移が絡んでいる可能性があることもわかった。このように、マクロな格子ひずみと磁気秩序が結合している系では、特有の磁歪と磁気形状記憶効果が期待できる。また、MnV_2O_4とFeV_2O_4でVの軌道整列のパターンがあることから、その混晶系ではミクロな相分離に起因するような巨大な軌道構造物性が期待できる。
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