これまで、スピネル型酸化物Fe_<1-x>MnxCr_2O_4において、組成xと温度の関数として結晶構造と磁気構造がどのように変化するのかを明らかにしてきた。また、理論的考察を行い、四面体サイトを占めるFe_2+イオンの3d電子軌道に関する秩序配列がスピンの容易軸の方向を支配しているという仮説を得てきた。この機構が八面体サイトを占めるイオンに対しても有効であれば、大きな磁気機械結合が期待できる。そこで、八面体サイトに軌道の自由度を有するV_3+イオンを入れたMnV_2O_4について、磁歪および磁場中でのX線回折の測定を行った。その結果、応力の代わりに磁場のみを外場として用いることによる形状記憶効果(磁気形状記憶効果)の実現に成功した。 また、昨年度見出したFeV_2O_4の逐次相転移について、その微視的な機構を明らかにするために低温での精密な単結晶構造解析を行った。この物質では、四面体配位のAサイトにFe_2+が、八面体配位のBサイトにV_3+がそれぞれ位置する。これらはともに軌道自由度を有する磁性イオンである。その結果、130Kでの構造相転移はFe_2+イオンの共同ヤーンテラー歪みであることが明らかになった。110Kでの転移はフェリ磁性転移であり、上述したスピン軌道結合機構による斜方晶への構造相転移を伴っている。60Kでの相転移はV_3+イオンの軌道秩序化に伴う正方晶への構造変化であるが、MnV_2O_4とは異なり、軌道がすべてのVサイトで強的に配列していることも分かった。
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