研究概要 |
平成19年度において,飛行時間型角度分解光電子分光装置の設計を行い,位置敏感型検出器を購入して製作を開始した。次年度,真空系と光源を購入し,装置を完成させる予定である。強相関物質の光電子分光測定については,従来型の光電子分光装置を用いて,フラストレートした三角格子を持つNiGa_2S_4のX線光電子,真空紫外線光電子スペクトルを測定し,電荷移動エネルギーが負の値がとることを見出した。さらに,電荷移動エネルギーと磁気的相互作用の関係を研究し,スピン無秩序状態が実現する起源を議論した結果は,Phys.Rev.Lett.誌に出版された。また,擬1次元物質Ta_2NiSe_5単結晶試料の角度分解光電子分光を測定し, R点付近で平坦なバンド分散となることを見出し,励起子絶縁体であることを示すデータを得て,平成20年3月の日本物理学会において報告した。これらの特異な基底状態を持つ系の光励起状態を調べる光電子分光測定を進めている。さらに,光励起によって低スピンー高スピン転移を示す鉄錯体[Fe(ptZ)_6](BF_4)_2について光電子分光測定を行い,光で誘起された高スピン状態は,高温での高スピン相と異なる電子状態であることを示すデータを得た。この結果は,J. Phys. Soc. Jpn.誌に出版された。光学材料として注目を集めている遷移金属ドープMgAl_2O_4の電子状態を光電子分光によって評価し,電荷移動遷移と配位子場遷移の関係を議論した。遷移金属の電子配置が光励起によって変化した状態は寿命が短いために今回は測定することはできなかったが,飛行時間型角度分解光電子分光装置が完成すれば光励起による電子状態の時間変化を追跡することができると期待される。その他に,光誘起金属絶縁体転移を示すマンガン酸化物とイリジウム硫化物,光誘起原子価転移を示す金ハライドにおける軌道状態の変化について,光電子分光測定を進めた。
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