平成20年度後半にNd:YAGパルスレーザーを購入し、位置敏感型検出器と組み合わせることによって飛行時間型角度分解光電子分光装置の試作を行った。試作機についてテスト運転を行った結果、効率よく光電子を計数することができていないことがわかり、点検の結果、試作機ではパルスレーザーの信号と同期した光電子の計数システムに不具合があることが分かった。今年度に得られた知見を手懸りにして光電子の計数システムのソフトウェアを開発し、効率よく時間分解光電子分光測定を行うように実験装置を改良する予定であり、当実験装置を用いて高速の光誘起相転移による電子状態変化の観測を行う足場となる基礎データが得られた。 強相関物質の光電子分光測定については、従来型の光電子分光装置を用いて、強磁性金属相と反強磁性電荷軌道秩序相が競合するペロブスカイト型マンガン酸化物薄膜のX線光電子・真空紫外線光電子スペクトルを測定し、光誘起による絶縁体から金属への転移と、光誘起による絶縁体から金属への転移の双方向の光誘起相転移が可能であることを示した。この結果は、Physical Review Letters誌に出版され、国内外の研究者からの注目を集めている。また、擬1次元物質Ta2NiSe5単結晶試料の角度分解光電子分光を測定し、Γ点付近で平坦なバンド分散となることを見出して励起子絶縁体であることを示し、さらに、励起子絶縁体を光励起することによって期待される光誘起超伝導を探索する研究を行った。これまでのところ光誘起超伝導を示す結果は得られていないが、励起光のエネルギーと強度を系統的に変えながら、引き続き探索を行っている。その他に、光誘起金属絶縁体転移を示すイリジウム硫化物、量子常誘電相で巨大光伝導を示すチタン酸ストロンチウム、光誘起強磁性が期待されるコバルトを含むチタン酸化物、光誘起原子価転移を示す金ハライド、等において光励起による電子状態の変化を光電子分光で観測することに成功した。
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