本研究は、低次元電子系、ヘリウムや水素の表面・量子界面・で発現する新しい量子現象を、極低温動作可能な走査プローブ顕微鏡(SPM)を新しいミクロなプローブとして用いて研究しようというものである。10mK程度の極低温で動作する走査プローブ顕微鏡を開発し、低温物理学にブレークスルーをもたらしうる新しい実験研究を展開していく。平成19年度は、まず音叉型水晶振動子を用いたプローブ顕微鏡の雑音特性と再現性の向上に重点を置いて前年度から継続して開発を行った。具体的には、SPMフィードバック測定系の雑音特性向上と、オールCMOSのOPアンプを用いた低温電流プリアンプの動作(9K)に成功した。また市販シリコンティップを振動子へ接着する技術を確立した。これらの努力の結果、チタン酸ストロンチウム表面をテスト試料として用い、室温と極低温下の両方で(ファンデアワールスカ等による)引力領域の検出と、原子ステップの観測に成功した。 装置特性の改善と同時に、本研究で遂行する実験研究の可能性について検討を進め、以下のような研究の準備を進めた。(1)グラファイト表面の極低温観察 極低温での原子分解能の実現とヘリウム薄膜研究への応用を目指して、グラファイト(HOPG)を試料とした原子間力顕微鏡実験の準備を進めた。(2)極低温摩擦力顕微鏡の開発と超伝導体表面の摩擦研究 音叉型水晶振動子の長手方向に探針を接着して表面と平行に振動させることで、摩擦力(水平力)顕微鏡を実現できる。極低温摩擦力顕微鏡を開発し、超伝導物質である2H-NbSe_2表面での摩擦力の温度依存性を測定する準備を行った。
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