研究課題/領域番号 |
19340105
|
研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
相浦 義弘 独立行政法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス研究部門, 主任研究員 (80356328)
|
研究分担者 |
永崎 洋 独立行政法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス研究部門, 主任研究員 (20242018)
増井 孝彦 国立大学法人大阪大学, 大学院・理学研究科, 助教 (10403099)
吉田 良行 独立行政法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス研究部門, 研究員 (50415767)
|
キーワード | 酸化物高温超伝導体 / 角度分解光電子分光 / 酸素同位体効果 / 電子格子相互作用 / 電子構造 / キンク構造 / 結晶歪 |
研究概要 |
超伝導に転移すると、超伝導状態は常伝導状態にくらべてエネルギーが低くなる(超伝導ギャップ)。これまで知られてきた金属超伝導体と異なり、銅系高温超伝導体には超伝導に転移する温度よりもはるかに高い温度から、超伝導状態に類似した電子状態が観測され、エネルギーギャップ(擬ギャップ)が存在していることが良く知られている。高温超伝導の振舞いを解明するうえで、超伝導ギャップと擬ギャップの相互の関係を理解することが必要不可欠である。銅系高温超伝導体の超伝導転移温度の「特異な」酸素同位体効果の解釈するために、これら2つのギャップに対する酸素同位体効果の解明を試みた。 最適ドープ(キャリア数一定)のBi_2Sr_<1.6>Ln_<0.4>CuO_<6+δ>を用いて、結晶歪を制御した銅系高温超伝導体試料酸素同位体効果の研究を行った。結晶歪は、この物質に含まれるランタノイド元素(Ln)をLaからGdまで系統的に変化させることにより制御した。すなわちランタノイド元素をLaからGdに変えて行くとランタノイドのイオン半径が小さくなるため、結晶歪を系統的に制御することが可能になる。この結晶歪は、これまでに超伝導ギャップサイズを変化させず、擬ギャップサイズだけを変えることが報告されている。本研究において、超伝導転移温度の酸素同位体効果は結晶歪みの増加とともに急激に超伝導転移温度が減少するが、酸素同位体置換に伴う転移温度の減少はほぼ一定であることが示された。その結果、結晶歪の増加とともに超伝導転移温度の酸素同位体効果は急激に増加することが明らかになった。この結晶歪に対する酸素同位体効果の振る舞いは、「超伝導ギャップの酸素同位体効果は存在するが、擬ギャップの酸素同位体効果は存在しない」という電子対破壊モデルにより定量的に解釈できる。 今回の実験結果は、酸素同位体効果は超伝導転移温度や擬ギャップでなく超伝導ギャップに直接関係していることを示唆している。超伝導ギャップと擬ギャップで酸素同位体効果が異なることを明らかにしたことは、今後の超伝導の起源の解明、特に電子フォノン相互作用の役割を解明する上で重要な知見を与えるものである。
|