研究概要 |
コバルトイオンが2次元3角格子を形成するCoO_2面とアルカリイオン面が、交互に積層する一連の層状コバルト酸化物では、「CoO_2面の構造的な安定性」と「電子間の強い相関」および「3角格子特有の幾何学的な競合(3頂点のスピンを同時に反強磁性整列させられない)」のために、CoO_2面のキャリア濃度(平均価数)の変化に伴い超伝導を含む多様な巨視的現象が発現する。これらを統一的に理解するために、層状コバルト酸化物の全領域電子・磁気状態図を、ミュオンスピン回転緩和(μSR)法により決定することが本研究の目的である。 特に今期はCoO_2面間に水を挿入することにより超伝導が発現するNa_<0.35>CoO_2系について、系統的な実験を行った。その結果、打ち込んだ正ミュオンがオキソニウムイオン的な[H_2μO]^+を形成することが明らかとなった。すなわち、水和Na_<0.35>CoO_2超伝導体中の水の一部がオキソニウムイオンとして存在することが証明された。さらに水和Na_<0.35>CoO_2ではキャリア濃度により、超伝導相I、磁性相、超伝導相IIが出現するが、両超伝導相の微視的磁性には本質的な相違がないことも明らかとなった。以上により、本研究課題である全領域電子・磁気状態図は解明された。 さらにリチウム電池正極材料として用いられている層状コバルト酸化物、Li_xCoO_2(x=0.73,0.53)のμsR測定により、150K以上でLiイオンが拡散することを見出した。Li拡散頻度から見積もった自己拡散係数(D_<Li>)は、第1原理計算の予測値と一致した。一方D_<Li>の測定に通常用いられる核磁気共鳴(NMR)法は、磁性元素を含む化合物のD_<Li>を数桁以上過小評価してしまう。正極材料は充電に伴うLi脱離を電荷補償するため、必ず磁性のある遷移金属元素を含む。すなわちμSR法は今後のLi電池の研究・開発のツールとなることを明らかにした。
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