研究概要 |
強相関系における新しい量子状態,とくにスピン液体状態の探求は最近の物性物理研究における中心的課題の1つになっている。そのなかから最近の計算物性物理の進展によってようやく手の届く範囲に入ってきたいくつかの問題をとりあげ,最新の計算手法を用いて研究することによって,新しい量子状態の探索と関連した量子臨界現象を解明することが本申請課題のねらいである。具体的な研究対象としてとりあげたのは主に以下の3つである:(A)幾何学的フラストレーションのある格子(三角格子,FCC格子など)の上のハードコアボーズ系,(B)deconfinement臨界現象に関連したSU(N)ハイゼンベルクモデルなどの量子スピン系,(C)鎖間または層間相互作用にフラストレーションのある準1,2次元量子スピン系。 (A)に関しては,FCC格子上のハードコアボーズ系の計算を通じて,この系において対角秩序と非対角秩序の共存相,すなわちマグノンによる超流動固体状態が生じることが見出された。また,これに関連して,最近物性研究所の実験グループなどによって開発されている層状三角格子磁性体NiGa2S4などにおける興味深い相転移現象を古典ハイゼンベルクモデルのシミュレーションを通じて探求してきた。この結果,この物質に対応すると考えられていた最も単純なモデルにおいては,3回対称性の破れを伴う1次転移がが観測された。 (B)に関しては,大規模な数値計算を通じて,U(1)的な近似的対称性の存在が 確かめられた。更にランクが2以上の場合にはVBS秩序が現れないかもしくは非常に弱い秩序しか存在しないことが分かった。更に,拡張アンサンブル法の量子系への応用を行った。具体的には,近年レーザー光で人工的に作り出した光格子内に冷却した原子を閉じ込めたときに生じる量子力学的スピン多体系の問題である。これに関して,量子モンテカルロ法のために一般化された拡張アンサンブル法に基づくプログラムを作成した。また,これを用いて実際に大規模計算を行い,脱閉じこめ転移の一種と考えられる双2次相互作用モデルにおける転移が2次であるらしいことが分かった。 (C)に関してはBaCuSi2O6に対応するモデルに対して古典モンテカルロ法によるシミュレーションを行った。この結果,離散的対称性をもった秩序変数が秩序化し,相転移のユニバーサリティクラスを変化させることがわかった。
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