研究概要 |
本研究代表者らの近年の研究により初めて,線形輸送現象のミクロダイナミクスからの再現に成功し,ミクロダイナミクスに基づいた非平衡現象の究明に道を開いた。この可能性を発展させることにより,これまで経験的な現象論に頼っていた工学,科学の諸問題に対し,より確たる与え,あるいはこれまでの限界を超える新技術による新展開が期待される。と同時に,いわゆる「マルチスケール,マルチフィジックスシミュレーション」に確たる基礎を与えるものと期待される。本研究の目標は,こうした応用研究の基礎となる非平衡現象の計算機シミュレーションをさらに研究し「計算機エミュレーション」にまで高めること,および非平衡緩和過程の計算物理学に基づいた非平衡統計力学の確立である。本研究初年度であった本年度はクラスタ計算機を導入し,3次元非線形格子系の異常輸送現象,および動的臨界現象の普遍性の検証などの成果がが得られた。粒子系では,1次元および2次元でこそ熱伝導率の系の大きさに伴う発散という異常輸送現象がみられたが,3次元では粒子の平均自由,行程の数十倍程度で巨視的な値に収束することが確認されていた。しかし非線形格子では数十格子間隔程度まででは発散を続けていた。この問題をさらに大きな系について調べ,200格子間隔程度まで発散を続けていることを確認した。臨界点での時空構造を規定する動的臨界現象の普遍性についてこれまで1次元イジングおよび2次元イジング模型で検証されていただけであった。この問題を2次元3状態ポッツ模型,3次元イジング模型で検証し,普遍性を確認した。また2次元イジング模型で2種類の相互作用を規則的に並べた系は一様な相互作用をもつ系とおなじ普遍性を持つことも確認した。この他に,剛体球のランダムパッキング,非平衡状態での流れの分布,熱励起破壊現象,双極子相互作用系ほかについても研究を進めた。
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