本研究代表者らの近年の研究により初めて、線形輸送現象のミクロダイナミクスからの再現に成功し、ミクロダイナミクスに基づいた非平衡現象の究明に道を開いた。この可能性を発展させることにより、これまで経験的な現象論に頼っていた工学・科学の諸問題に対し、より確たる基礎を与え、あるいはこれまでの限界を超える新技術による新展開が期待される。と同時に、いわゆる「マルチスケール・マルチフィジックスシミュレーション」に確たる基礎を与えるものと期待される。本研究の目標は、こうした応用研究の基礎となる非平衡現象の計算機シミュレーションをさらに研究し「計算機エミュレーション」にまで高めること、および非平衡緩和過程の計算物理学に基づいた非平衡統計力学の確立である。本研究では昨年度までの研究は分子集団の熱的挙動から輸送・非線形応答までにとどまっていた。第3年度となる本年度はこれまでの課題に加えてさらにその先、すなわち非線形応答する素子からなるシステムおよび多種システムが共存する生態・進化の問題でも成果があがりつつある。具体的には以下の業績を挙げた: (1)生物生態系を代表とする進化論的な多種共存系のふるまいには、普遍的な統計法則があることを示した。構成種の寿命の分布関数にはいわゆる「曲がった特性(skew profile)」があることが古生物学分野で化石に基づいて知られていたが、これが普遍的であることを強く示唆する結果が種々の数理モデルの解析より明らかとなった。この分布関数は指数1/2の引き伸ばされた指数関数であると推測される。 (2)メソスケールの反応拡散流れ系では、反応の種類によりさまざまな空間分布が実現することを、計算機シミュレーションで実証した。その結果から、2種反応系が4次元以下で示す密度ゆらぎによるいわゆるヴィルチェック異常、2次元以下での拡散・輸送の異常などが現実の現象にどのように現れるかを明らかにした。
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