本研究では、微小な球形の共振器を対象としこの系で現れる「速い光」、「遅い光」の基礎物理を解明する。平成20年度は以下の研究を展開した。 パルス伝播の実験は、超狭帯域単一縦モードファイバーレーザーからの連続光をLN変調器で時間的に切り出すことで発生させ、微小球系を光パルスが伝播するのに要する時間遅延を測定した。そして、弱結合(Under coupling)では異常分散に基づいた「速い光」が、強結合(Over coupling)では正常分散に基づいた「遅い光」が現れることを実証した。また、弱結合と強結合の臨界点、すなわち、伝播光と球の結合強度と球内部の損失がちょうど等しくなる臨界結合条件下では、はBallistic光とCirculated光の時間的な遅れによって引き起こるダイナミックなパルス分裂を観測した。 2つ以上の微小球を組み合わせた構造分散系として、Q値の異なった2つ微小球を直列に結合させたEIT(Electro-magnetic Induced Transparency:=電磁誘導透明化現象)型のスペクトル構造を作り出した。本来、強い吸収のある周波数領域に、線幅の極めて狭い透明領域が作り出された。これを、CRIT(Coupled Resonator Induced Transparency:=結合共振器誘導透明化現象)と呼んでいる。さらに、2つの微小球の共鳴周波数が離調している場合には、透過スペクトルに著しい非対称性をもった特徴的なスペクトル構造が現れ、これをFano型干渉効果によって説明した。これに伴った分散により、非常に遅い光の伝播や光の凍結が実現することが期待できる。
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