本研究の目的は、光の放射圧によって微粒子を空間捕捉する光トラップ技術を用いて水滴や氷の微結晶を空中に静止させ、相転移や成長過程をその場観測する新しい実験手法を提供することである。これにより、従来不可能であった過渡現象の観測や多体問題の実験室シミュレーションを実現する。さらに光トラップの高速変調性や空間操作性を生かし、結晶成長のプロセスそのものを積極的に制御する可能性を探る。 1.過冷却水滴の衝突凍結の観測 前年度製作した観測系に新たに高速度カメラを設置し、捕捉された水滴や氷晶の顕微鏡画像と散乱光パターンを同時に観測することが可能になった。トラップ内の過冷却水滴に氷結晶が衝突し、接触凍結によって水滴が氷へ相転移する瞬間を実時間観測することに成功した。衝突の直後、規則正しいMie散乱パターンは乱雑なパターンへと変化し、同時に散乱強度も急激に増加する。これは、接触凍結により生じた表面のステップ構造に起因するものではないかと推測される。散乱光強度の時間変化から凍結は数ミリ秒で完了することが明らかになった。一方、水滴や氷結晶によるトラップ光のラマン散乱を検出することができた。ラマンスペクトルは結晶構造を直接反映するため、時間分解計測を行い相転移過程の逐次変化を追跡していく予定である。 2.新しいトラップ法の開発 ラジオメトリック力を用いた新しい空間捕捉の可能性について検討した。従来のように表面温度差を利用するのではなく、原子・分子の内部状態とドップラー効果を利用して、表面に及ぼされる圧力を光の周波数変化で制御する方法を考案した。また、対流効果を併用した光トラップにおいて空間捕捉された微粒子からの熱放射を観測し、スペクトルにサイズ効果が現れることを突き止めた。同様の効果は上述のラマンスペクトルにも現れる可能性があり、粒形や大きさを精密に計測する手段になる。
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