研究概要 |
分子座標系での光電子の角度分布(MF-PAD)による、基本分子の内殻光電離ダイナミクスの研究を新たな観点から発展させ、新しい研究分野の開拓を目指して推進した。特に、最近開発してきた多重同時計測運動量画像観測法を駆使して、単純直線分子から非直線分子や希ガス・ダイマーなどへと従来の研究対象を飛躍的に広げた。 具体的には、希ガス・ダイマーNe_2のNels内殻光電離におけるオージェ崩壊後の解離過程を系統的に調べたMF-PADによって、Ne_2ダイマーの解離過程(輻射遷移で到達するNe^+-Ne^+および無輻射遷移で到達するNe^+-Ne^<2+>)の違いにより、内殻電離後の解離過程の時間スケールが著しく違うことを発見した。同時に、Ne_2ダイマーのような等核2原子分子であっても、初期1s内殻ホールが片方のNe原子に局在していることを、Ne^+-Ne^<2+>の解離チャンネルに対するMF-PADのパターンの対称性の破れから明らかにした。 また、水分子のO1s内殻光電離によって生じる、O^+,H^+,H^+,Ol光電子の4重同時計測により、非直線分子のMF-PAD測定に世界で初めて成功し、3重に縮退した連続状態を完全に解きほぐしたMF-PADを得た。そして、光電子放出の立体ダイナミクスを明らかにした。この研究をベースとして、光電子回折の理論家と共同で、新たな研究の展開を始めた。すなわち、一回散乱が支配的となる、比較的高い運動エネルギーのOls光電子のMF-PADから、分子構造を決定する方法論の確立を目指した研究に着手した。この研究の成果はまだ公表していないが、有望な結果が得られている。
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