研究概要 |
「干渉合成開口レーダー(Interferometric Synthetic Aperture Radar/InSAR)」を利用した陸域のプレート境界周辺での地殻変動の検出を通じて、断層帯の変形様式の解明を目指してきた.計画では経年的な地殻変動の検出を予定していたが,実施期間内に陸域での規模の大きな地震が相次ぎ、それらのメカニズムの解明は当初の科学目的にも合致することから、内陸地震の断層モデルの構築を中心に行った.2008年5月の中国四川省〓川地震(M7.9)では,総延長約300kmの断層の南西約100kmでは二枚の断層面があったこと(Kobayashi et al.,2009),南西部で40-50度だった傾斜角が北東端ではほぼ垂直になったこと,南西部では主段層に直交する共役断層(トランスファー断層?)の存在が明らかになった(Furuya et al.,2010,BSSA,改訂中).また2008年3月の中国チペット自治区の于田地震(M7.3)は,平均標高5000mを越える高地で起きた地震で地上観測データは全く無いが,これについても「だいち」のPALSARデータを用いることで,断層面が途中で屈曲した西落ちの正断層であることが分かった.3年間の研究期間で解析したどの地震についても,大勢は断層モデルで説明できるものの,一枚の矩形断層に滑り分布を考慮しても説明できないような複雑なシグナルを示すことが常であり,断層形状の複雑さが普遍的であることが示唆された.陸上観測データに全く依存することなく,断層運動のより現実的な幾何学的描像を捉えた点に意義があり,力学的により現実的な変形モデルの構築のために重要な制約になる筈である.SARデータの殆どは,JAXAの陸域観測技術衛星「だいち」に搭載のLバンド高分解能SARデータで,他のSAR衛星では同様の結果が得られないことから,継続的なLバンドSARデータの取得が重要であることも実証された.大気ノイズの軽減へ向けては,高空間分解能数値気象モデルの進歩とレイトレーシング法に基づいたノイズ補正の手法開発を行い,予備的な解析を行ったが(Hobiger et al.,2010,J.Geodesy改訂中),数値気象モデルの予測値との一致はまだ十分ではなく、今後の課題といえる.
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