「地球のマントルの運動は上下境界に存在する熱的・組成的不均質によって駆動されている」というモデルを実験により示すことが本研究の目的である.熱的な不均質性(局所化加熱)や組成的不均質性(境界層の地形)によって生じるグローバル対流場とローカル対流場(プルーム)の相互作用に焦点を合わせて研究を行った.(1)室内実験:擬2次元セルにおいて上下境界に熱的・組成的不均質を導入し、内部に駆動される対流における温度場・速度場・組成場の進化(時間発展)を検出し、不均質の程度と相互作用の大きさの関連づけを行った.特に密度を厳密に制御された液体と粒子の混合系の対流では沈殿粒子層がアクティブに形成され、対流の流れ場との相互作用によって「境界層地形」が自律的に形成され、対流場をコントロールするプロセスが明らかにされた.この自己組織化プロセスはマントルダイナミクスを考える上できわめて重要な現象である.粒子濃度が高い系ではサスペンション流状態から浸透流状態への転移が系の熱輸送を決める上で重要である点が明らかにされた. (2)数値手法の開発:多相系の対流の定量的な記述のために粒子法に基づいた新しい数値シミュレーションコードの開発を行い、密度・界面張力のコントラストの大きな鉄・シリケイト系へ応用した.各相の流体運動はサイズが支配し、サイズは粒子の衝突が支配するために、この系は特徴的な時間発展・進化を遂げることが明らかになった. (3)特に今年度は最終年度にあたるために得られた実験成果を現実の場である惑星・地球の熱的状態の理解や進化の理解に応用を計った.応用された例は地球のプルーム、特にアイスランドプルーム活動の定量的な理解、地球初期のマグマオーシャンでの鉄分離プロセス、火星の火成・マグマ活動史、氷衛星であるガニメデの熱進化とその結果生じる磁場の起源などである.
|