研究概要 |
本研究では、メルトがP波速度・S波速度・ポアソン比に及ぼす影響を定量的に明らかにすることを目的とした。平成19年度は、島弧地殻深部に相当する高温高圧条件(最大800℃、1.0GPa)の高温高圧下で岩石試料のP波・S波速度を同時に測定する装置を立ち上げた。具体的には、(1)弾性波速度測定装置の超音波入力パルスおよび受信パルスから高周波ノイズ(50メガヘルツ以上)を除去、(2)高灰セルの設計変更による反射パルス強度の増加(従来の装置に対して約5〜10倍の強度を得られるように改良)、(3)親規にデジタルオシロスコープを導入することより、波形データのアベレージング速度の増加およびロングレンジメモリ搭載による波形データ測定効率の大幅な改善を行った。その結果、岩石試料両端からの反射波(P波・S波)を2〜3往復程度まで計測可能となり、Vp/Vs比やポアソン比を精密に測定することを可能とした。さらに、上記装置を用いて角閃岩の部分融解メルトがP波・S波の減衰に及ぼす影響を評価した。 さらに上記装置を用いて、マリアナトラフで採集された角閃岩、および神奈川県丹沢出地の角閃岩の弾性波速度を、1.0GPa,800℃までの条件下で測定した。1.0GPaにおいて、角閃岩は、室温で6.59km/s、600℃で6.71km/sのVp速度を示した。さらに温度上昇に伴いVp速度は5.78km/s(800℃)まで急激に減少した。1.0GPaにおいてVsは室温から500℃まで3.36-3.30km/sと緩やかな減少を示したが、さらに高温領域(500-750℃)では、急激な減少(3.30-2.98km/s)が認められた。ポアソン比は室温で0.32、500℃で0.34であった。さらに高温領域(500-750℃)では温度上昇に伴いポアソン比は0.37まで急激に増加した。これは、500℃付近で角閃石の脱水融解反応が起こり、メルトが生成したことによるものと考えられる。上記の研究成果をAGU(米国地球物理学連合)秋季学術講演会(サンフランシスコ)で発表した。
|