本研究の目的は、種々のゼオライト化合物における水分子と交換性陽イオンの結晶学的配置を明らかにし、ゼオライトの蓄熱特性を支配している要因を結晶化学的見地から解明することによって、ヒートポンプ蓄熱材としての結晶化学的な材料設計指針を構築することを目的とする。 昨年度(平成20年度)において、単結晶X線構造解析によってchabazite(菱沸石)の水分子と交換性陽イオンの位置決定を行った結果、いくつかの水サイトにおいて著しく大きな温度因子が観測されたことから、これらの水分子において位置的なdisorderの存在が示唆された。よって、熱振動を低減させることによって、位置的なdisorderの存在を含めたさらに詳細な位置的情報を得るために、今年度(平成21年度)はchabaziteの低温(123K)における単結晶X線構造解析を行った。その電子密度分布の詳細から、水サイトのうちの1つにおいて、これまで考えられてきた位置と異なるWyckoff positionに位置していることが明らかになった。また、各水サイトからの脱水挙動を検討するために、異なる温度で脱水処理して得られた含水量の異なる7試料について、上記の低温構造解析で明らかになった水サイト位置を考慮して単結晶X線構造解析を行った。その結果、原子間距離から判断して、フレームワーク酸素と水分子との間の水素結合が弱い水分子から優先的に脱水することが分かった。 さらに、単結晶X線構造解析より、輝沸石(heulandite)の水分子と交換性陽イオンの結晶学的配置も検討した。その結果、これまでheulanditeの空間群はC2/mと考えられていたが、対称中心のないCmであることが明らかになり、11個の水サイトと4個の交換性陽イオンサイトが存在することが分かった。 上記で行ったX線回折強度測定には現有の4軸型X線回折装置を用いたが、それに先駆けて行った試料の結晶性評価には平成20年度に購入したイメージングプレート読み取り装置を用いた。X線構造解析計鏡には今年度購入したパソコンを用いた。
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