研究概要 |
申請書に記載された研究計画を中心として行なわれてきたトカラ火山列島に関するドレッジを用いた海洋調査は,平成20年度に実施した2航海を含め,6航海に達した(淡青丸航海:KT00-15,KT07-2,KT07-21;長崎丸航海NAG254,NAG267,NAG274)。これら航海期間に,計67回のドレッジ調査を試み,多くの海底から岩石を採集する事に成功した。このような系統的岩石ドレッジは,これまで同海域で行なわれておらず,トカラ列島の火山活動を理解する上で貴重な情報源になるものと思われる。 系統的に採取された岩石群に対する火山学的・岩石学的検討から以下のように結論できる。 1、トカラ列島の火山活動は,従来考えられているような安山岩類を主体としておらず,酸性火山岩類が海底に広く分布する。採取された流紋岩類の特徴から,酸性の溶岩ドーム周辺を構成した部分や巨大な火砕流噴火に伴ったと思われる軽石類が確認された。これによって,従来考えられている海上部分の火山活動とは別の,流紋岩質火山活動が海底部分に存在する事が明らかとなった。 2、火山活動の時期は,岩相上の特徴(軽石類の火山ガラスが未変質のままである,岩石表面にはFe-Mnクラストがほとんど認められないかあってもフィルム状であった)から,比較的若い時代の火山活動によってもたらされたと推定できる。特に,昨年度行なった年代測定のサンプルと火山ガラスの状態が酷似していることから,海底で採取された流紋岩類の多くは,中期更新世以降現在まで活動時期はさかのぼるものと推定される。 3、奄美カルデラ周辺から採取された,MoやAsに富むFe-Mn酸化物は,海底カルデラの内部に比較的規模の大きな熱水活動の存在をほのめかす。これらは,九州南部と同様に金属資源の存在を暗示しているのかもしれない。 このように,地質学的および岩石学的研究において多くの新発見があった。採取されたサンプルの地球化学的解析は,まだ始まったばかりである。来年度は,これらの解析によって更なる発見が十分期待される。
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