研究概要 |
気液界面は,その内側には溶媒が無限に存在する一方,気相側には溶媒分子が全く存在しないという,極めて特徴的な微視的環境を形成する。このため液体表面の分子は,バルクとは異なる溶媒和構造をとる。本研究の目的は,「気液界面で,分子やイオンがどのような溶媒和構造をとるか。またその溶媒和構造は,溶液表面の化学反応とどのような関係にあるか」を微視的なレベルで解明することにある。平成19年度は。現有の装置および19年度予算で購入したパルスOPOレーザーを用いて,水溶液表面イオンの共鳴多光子イオン化スペクトルを測定した。具体的には,直径20・mの液体ビームを真空容器の上方から下方へ向かって導入した。真空中に導入された液体は,液体窒素トラップによって凍結捕捉した。真空容器全体は汎用の油拡散ポンプで排気され,実験中の真空度は10-6 Torrに抑えた。液体ビームに対して垂直方向からパルスレーザーを照射し,液体表面から放出されるイオンを加速電極に印加されたパルス電場によって引き出し,飛行時間型質量分析器によって,その質量を測定しイオン種を同定した。ハロゲン化ナトリウム水溶液中に存在するハロゲン化物イオンは,紫外〜真空紫外領域に光吸収帯(CTTS(Charge Transfer To Solvent)バンド)をもつ。ヨウ化物イオンは,5.6eVの領域にCTTSバンドをもつが,その吸収スペクトルは220nm付近にピークをもち長波長側にすそを引いた形になる。一方水溶液表面ではこの吸収が長波長側に0.3eV程度シフトすることがわかった。これは,基底状態のI-の溶媒和の度合いは水溶液中でも表面でも殆ど変化しないが,励起状態のI-*は液体表面でより安定化されるためと考えられる。
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