研究概要 |
低い計算コストで電子相関を取り込むことができる密度汎関数法(DFT)は,大規模分子系の計算に適した方法である.しかし,Gauss型基底を用いた密度汎関数法においてもっとも計算時間を必要とする部分は,二電子積分であるCoulomb積分の計算であり,その数は分子の大きさNに対してO(N4)のスケールで急増する.したがって,大規模な分子系の計算に適用するためには,分子の大きさに対して計算時間がより穏やかなスケーリングで比例するCoulomb積分の計算法を開発する必要がある.われわれはO(N)でCoulomb積分を高速に計算するGauss型-有限要素Coulomb(GFC)法という方法を開発した.GFC法を用いることにより,精度を損なうことなく,効率的に大規模分子計算が実現できることが示されている.また,大規模な分子計算を実現するため,dual-level密度汎関数法(DFT)とよぶDFT計算の新しい近似理論も開発した.dual-level DFTは,計算時間を要するSCFの手続きを避けることのできるDFT計算に対する新しい近似理論である.SCF計算を行わないので大幅な高速計算が実現できる.また,得られる結果はSCFに基づいたDFTの結果と遜色がない.あわせて,本年度は,超分子のような大規模分子系の分子軌道計算の結果を効率的に解析することのできる理論的なアプローチを開発した.この方法は,フロンティア分子軌道論を拡張したものである.フロンティア軌道法の立場から大規模な分子系の化学反応に対する理論的解釈を与えるだけでなく,分子論から新規物質の創出を実現することができる.
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