製作した超短パルスレーザーの磁気光学効果によるラーモア歳差運動観測を行う光学システムを用い、いくつかのモデル分子系に対して超高速時間分解ESRスペクトルの測定を試みた。分光計測でピコ秒で光分解することがわかっているオキシムエステル系の化合物やりんを含む芳香族ケトン類の光分解反応を、パルスESR法で観測し、これらの立ち上がり速度がサブナノ秒であることを磁化の測定からも確認した。また、レーザー照射直後の数百ナノ秒間は極めて大きな非熱分布電子スピンによる巨大磁化が発生することも確認した。これらのサンプル溶液を観測対象に選別し、制作した装置内に設置されている小型の電磁石中のフローセル中を通し、ピコ秒励起による光分解を行った。電磁石から発生させることのできる磁場が0から4000ガウス程度であり、この範囲の様々な磁場に対して光分解とファラデー効果による磁化の観測実験を行ったが、モニターに用いるファラデー回転用のプローブ光を検出する光学系の設置に問題があり、明瞭にラーモア周波数を決定するに耐えるだけの磁化の時間変化は観測できなかった。この結果をもとに、プローブに用いる偏光のクオリティーの問題や、ファラデー効果が大きく発現するプローブ波長の選別が大切であるとの考察を行った。装置は組み立て終わったので、今後は、ピコ秒レーザーの波長を変換することで、明瞭なファラデー効果の超高速時間分解観測を行い、本研究の目的達成を今後も遂行する。
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