研究課題
本研究では、超臨界水中での光電子移動ダイナミクスの包括的な理解を目的として、超高速光励起緩和過程に対する総合的なアプローチをおこなった。実験では、常温から400℃までの40MPaの等圧線にそって、さらに400℃で30MPa程度までの圧力領域でニトロアニリンの超高速過渡吸収測定をおこなった。過渡吸収スペクトルの詳細な解析の結果、励起状態からの逆電子移動速度は温度によらずほぼ一定で0.4ps程度であり、また基底状態での振動緩和速度は温度変化の途中で極大値をもつことがわかった。Marcus理論に基づく解析を行ったところ電子移動速度の変化は温度効果と振動励起効果との競合によるものと推測された。一方振動緩和速度の変化は、水素結合による局所密度効果と温度効果との競合によるものと解釈された。また超臨界アルコールなどの水素結合性溶媒での有機分子の振動緩和速度の検討もあわせて行い、水素結合の役割を明らかにした。理論的には、超臨界水中での電荷移動分子の溶媒和の詳細について、RISM-SCF-SEDD法による詳細な評価をおこなった。同法は液体の積分方程式(RISM)を用いることにより、高精度電子状態計算と溶媒和を結び付けて議論できる点が大きな特長である。まず孤立分子の電子励起状態の計算をCASSCFおよびMCQDPT計算で行い、実験が行われた温度および密度に設定して水、メタノール中での一重項の第一(S1)および第二(S2)電子励起状態の計算を行った。その結果、高密度側でS1が少し不安定化するのに対し、一方でS2が著しく安定化することを見出した。こうした電子状態による溶媒和の違いが、実測の吸収スペクトルに反映されていると考えられる。また、基本的に水素結合による水和が重要であるが、密度増加に伴ってパッキングによる寄与が徐々に重要になることも分かった。この成果は既に学術論文として公表ずみであるが、投稿にあたって二人の審査員からともに「このまま掲載すべき」との極めて高い評価を受けた。
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