本年度は多次元分光スペクトルを分子動力学的アプローチから計算する手法の開発と、統計モデルを用いて自由エネルギー面を正確に計算し、その自由エネルギー面と多次元分光スペクトルの関係についてを論じた。特に分子動力学法による手法については、5次の2次元ラマンのみならず、3次のIRについても直接シミュレーションで計算することに成功した。HF分子の分子間振動について計算し、水素結合の非線形性や、周波数揺動から生ずる不均一性の役割を、以前行った階層型フォッカープランク方程式の結果と対比することにより解明することに成功した。自由エネルギー面と多次元分光の関係については、多次元分光を用いれば自由エネルギー面の違いを検出可能である事を世界で初めて示した。この結果はNMRなどのスピン系についても応用可能であり、その方向で現在研究を進めている。また、スピン系の相互作用と、多次元ESRやNMRの対比についても研究を行った。スピン系については、それを記述する方程式を導出する必要があるが、今回新たに、非オーミック的な場合の階層運動方程式を導出することに成功し、電子移動反応と多次元分光の関係を論ずる基礎を確立した。この他に、多次元赤外分光において量子効果がどの程度重要かを探るために、古典的と厳密量子的な場合について、階層型方程式を解いている。現在、古典的結果が出初めてところであるが、予想に反して量子効果は多次元振動分光ではあまりきかないようである。
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