本研究の目的は、Elongation法によって種々のDNA鎖とその一部修飾された系の局所的バンド構造や修飾部の周囲の塩基対の効果を高精度で効率よく算出することであり、DNAシーケンスおよびその分子構造と電気伝導性の可能性の関係、およびメカニズム解析を行うことである。そのために、有限鎖から無限鎖のエネルギーバンド構造を抽出する方法を完成させるとともに、不純物や欠陥が含まれる系に対しても適用可能かどうか詳細にチェックを行った。まだDNAには応用できていないが、その前段階として、導電性高分子系やナノチューブに対してその有効性を確認した。DNAの電気伝導性と分子構造の関連をさぐるために、まず現在のプログラムを並列化させたあと、種々のDNA鎖とその一部修飾された系の局所的バンド構造、および修飾部の周囲の塩基対の効果を高精度で効率よく算出する予定である。 一方、実験との比較においては溶媒効果の重要性がわかったため、分極連続体(PCM)法をElongation法に導入し、水中でのDNA計算が可能となるように発展させた。実際にB-DNA(Poly(dG)・Poly(dC))の20残基に対して本方法を用いた計算を行い、溶媒のない真空中での計算と同様、極めて高精度で計算可能であることを確認した。さらに、NLO特性を調べるためにFinite-Field法によるElongation法によってB-DNAを計算したところ、DNAの分極率および超分極率を得ることができた。余りにも系が膨大であるため従来法との詳細な一致を確認できていないが、クラスターサイズの小さい部分では良好な一致を確認した。 当初はMultiple expansion法と基底カットオフ法を組み合わせたQFMM-AO-cutoff法を開発する予定であったが、三次元系に対するGeneralized Elongation法のプログラム開発が順調に進んだため、方針を変更して今後はGeneralized Elongation法を用いて開発・応用計算を行うことにしている。本方法によると、DNAの螺旋に沿って伸長する際に、らせんが戻ってきた場合にも一度凍結したLMOを再度解凍して相互作用に含めることができるため、自由自在にDNAを変形することが可能となる。応用を行う前に、本方法のアルゴリズム完成させることを優先した方がよいと考え、応用計算よりもむしろプログラム開発に取り組んでいる段階である。
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