研究概要 |
本研究ではゲルマニウムーゲルマニウムπ単結合をもつ化合物を初めて合成し,その構造や性質について調べたところ,以下のような知見が得られた。 trans-1,3-ジブロモ-1,2,2,3,4,4-ヘキサ-tert-ブチルシクロテトラゲルマンをベンゼンーTHF(3:2)溶液中,2当量のカリウムで還元すると,1,2,2,3,4,4-ヘキサ-tert-ブチルビシクロ[1.1.0]テトラゲルマン(1)が紫色の結晶として88%の収率で得られた。X線結晶構造解析の結果,橋頭位のゲルマニウムーゲルマニウム結合長は3.127Aであり,通常のゲルマニウムーゲルマニウム単結合より著しく長いことがわかった。ビシクロ[1.1.0]テトラゲルマン環は平面ではなく,二つの三員環の二面角は164.5°であった。また,橋頭位のゲルマニウム原子は平面ではなく,ややピラミッド化した構造をとっている。以上の結果から,この化合物はケイ素類似体である1,2,2,3,4,4-ヘキサ-tert-ブチルビシクロ[1.1.0]テトラシラン(2)とは異なる構造的特徴を示すことがわかった。 化合物1は固体および溶液状態でESRシグナルを示さなかった。また,直流磁化測定の結果から,この化合物は反磁性体であることが明らかになった。この結果は橋頭位のゲルマニウム原子は不対電子をもたないことを示している。理論計算の結果より,二つのゲルマニウム原子間にはπ単結合が存在しており,そのためこの化合物は一重項状態をとるものと考えられる。 化合物1は紫外可視吸収スペクトルにおいて,最長波長吸収極大を557nmに示す。この吸収帯はπ-π^*彊移に帰属される。この波長はケイ素類似体2の値(489nm)より約70nmも長波長側にシフトしている。この結果は,化合物1のゲルマニウムーゲルマニウム結合長が非常に大きいため,3p軌道同士の相互作用が弱まり,π軌道とπ^*軌道のエネルギー準位の差が小さくなるためと考えられる。
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