研究概要 |
本年度は,昨年確立したX線照射による方法(特許出願)を用いて,ジフェニルメチレンシクロプロパン(1)の熱発光における置換基効果を検討した. まず77Kにおいて20mMの1を含むメチルシクロヘキサンマトリクスに2時間のX線照射後,アニーリングを行うと,励起三重項トリメチレンメタン(2^***)のTL(λTL-501nm)観測に成功した.このTLスペクトルは,1,1-ジフェニルエチルラジカル(3^*)の光励起発光スペクトル(λPL=522nm,Fig.1b)と波長はやや異なるものの酷似しており,^32^***の発蛍光団は部分骨格である3^**とほぼ同じであると考えられる.また,2^***と3^**の発光について,フェニル基のパラ位の置換基効果を検討したところ,それぞれの置換基効果の程度はほぼ同じであった.このことから,2^***は捻れ型分子構造・分離型電子構造をもっていることが示唆されだ.また,2^***のアリルラジカル骨格は発光過程に大きな影響を与えないことが示唆された.これらの結論は,2^**と3^*の密度反感数理論計算によっても支持された.困難な課題ではあるが,今後,2^***についても検討が必要である. さらに,本研究では,ダブルレーザー(Nd:YAG 355/355nm)を用いた1室温・塩化メチレン中における^32^***の発光特性についても検討した.興味深いことに,その発光波長は,上記メチルシクロヘキサンマトリクス中における発光にくらべ20nm程,長波長シフトしていた.今後,なぜこのようなシフトが起きるのかを検討する必要がある.
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