研究概要 |
我々は、(R)-BINOLより得られるリン酸エステルがキラルブレンステッド酸として優れた不斉触媒能を有することを見出している。本触媒は数多くの研究者がその触媒活性を検討し、おもに、イミンに対する求核付加反応や付加環化反応などにおいて優れた不斉触媒能を示すことが明らかにされている。本研究ではこれまであまり研究されていなかったカルボニル化合物の活性化に取り組み、分子内アルドール反応の不斉触媒反応の開発を目指して研究を行った。その結果、テトラロン由来のケトエステルとメチルビニルケトンにより得られる化合物を用いて分子内アルドール反応を行ったところ、アルドール反応において速度論的光学分割を行うことができることを初めて見出した。3,3'位に(2,4,6-(i-Pr)_3C_6H_2基の置換したキラルリン酸を触媒として用いることにより、鏡像異性体間でのアルドール反応の速度が大きく差別化することが可能であり、ラセミから出発して分子内アルドール反応、さらに引き続く脱水反応により、対応するシクロヘキセノン誘導体が最高92%eeで得られた。更に,面対称を有するトリケトンを基質として用いる事により同触媒により,アルドール反応において非対称化が効率良く進行し対応するシクロヘキセノン誘導体が最高94%eeで得られる事も見出した。得られた化合物は、ステロイド等の生理活性化合物の有用な合成中間体になると考えられる。高い不斉誘起が発現する理由については理論化学的な手法を用いて明らかにする予定である。以上、本研究により、キラルブレンステッド酸触媒により光学分割,非対称化というこれまでにない現象を見出すことができ、リン酸触媒の適用範囲をさらに拡げることができた。
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