研究概要 |
2つのリン配位子をフェロセンで2重に架橋したリン架橋[1.1]フェロセノファンを用い,このユニット同士をビスフェノールAをリンカーとして環状に結ぶことにより内包空間が大きな大環状フェロセノホスフィンを合成した.得られた大環状配位子に対する金属の配位様式を明らかにするためにAg(I)を用いて錯形成反応を行った.その結果,期待どおり2つのAgフラグメントが互いに向かい合ってP原子に配位していることが確かめられた.また,2つのAgイオンで挟まれた空間には,溶媒として用いたアセトニトリルが4分子取り込まれていた.次に,触媒に多用されているPt錯体との反応を試みた.Pt(II)フラグメントとしてPtCl_2(cod)を用いた反応では,不溶性の沈殿が生成した.そこで,拡散法により配位子とPtCI_2(cod)を徐々に反応させると良好な単結晶が得られた.この結晶構造を調べると期待どおり2つのPtCl_2フラグメントが環内に取り込まれていた.さらに,Pt(O)錯体としてPt(PPh3)_4やPt(PPh_3)_2(PhC≡CPh)などを用いて大環状配位子との反応を行っても,Pt(L)(L=PPh3, PhC≡CPh)が2ユニット取り込まれた生成物が得られた.PhC≡CPhが配位したもののX線結晶構造解析の結果,各々のP-Pキレートの配位平面が互いに傾けるように,配位子の構造が変化することで,嵩高いジフェニルアセチレンを含むPtフラグメントでも大環状配位子の空間に収容できることが確かめられた.このことから,今回合成に成功した大環状リン配位子は,フェロセンユニットの嵩高さの割には,その構造を変化させるだけの柔軟性を持っていることが明らかになった.
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