平成20年度は、新たに開発したピンサー型シリル配位子(PSiP配位子)に関して、国内外の他グループとの競合が判明したため、研究の進展していたイリジウム錯体に集中して検討を進めた。昨年度合成した五価もしくは三価ヒドリドイリジウム錯体から反応性の高い低原子価イリジウム錯体を発生させ、C-HやアンモニアのN-H結合切断を試みた。PSiP配位子を持つ五価テトラヒドリドイリジウム錯体からオレフィンの配位した一価イリジウム錯体を発生させるため、過剰量のオレフィンとの反応を検討した。ノルボルネンとの反応では、目的とする一価イリジウム錯体の合成に成功し、NMRおよび単結晶X線構造解析で構造を確定した。一方、tBUCH=CH_2との反応をベンゼン中で行ったところ、オレフィン錯体の生成は確認できなかったが、室温でもベンゼンのC-H結合切断が起こり、ベンゼンのC-Hが酸化的付加をした錯体が定量的に生成することを見いだした。さらに、同様の反応をTHF中で行うと、THFのC-H結合切断が起こっている可能性が示唆された。また、1-ヘキセンとの反応では、低原子価錯体の生成は確認されず1-ヘキセンが内部オレフィンへと異性化することが分かった。この異性化反応は触媒的に進行し、2-ヘキセンおよび3-ヘキセンの混合物が得られた。また、トリフェニルホスフィンの配位した一価錯体の合成を試みたところ、トリフェニルホスフィンが配位し、さらにホスフィン上の1つのフェニル基のC-H結合が酸化的付加した錯体が選択的に生成することが分かった。以上のように、PSiP配位子を持つ低原子価イリジウム錯体は高いC-H結合切断活性を持つことが明らかとなった。一方、アンモニアのN-H結合切断に関しては、N-H結合切断を示唆する錯体が確認されているが、生成物の同定が難しく、現在理論科学計算を含めた検討を継続している。
|