本研究では、ナノ粒子が2次元(2D)配列した凸凹構造をもつ固体表面上で起こる新規なレーザー脱離ソフトイオン化(SALDI)法を確立することを目標とする。本年度において、金ナノ粒子を利用したAu-SALDIの新しい展開を図った。Au-SALDIは、簡便性、粒子当たりの高いイオン化効率、及び粒子表面吸着物の選択的イオン化が可能などの特徴を持っている。しかし、Au-SALDIの問題点はナノサイズ効果によって金ナノ粒子の融点が減少するために、レーザー照射によって生じる金クラスターイオンが妨害イオンピークとして低分子量域に出現する。また、Au-SALDIでは、一般的に、金コロイドを滴下乾燥させた基板をイオン化基板として用いるが、その乾燥過程で金ナノ粒子が凝集し、その凝集状態が試料のイオン化効率や再現性に影響を与える。ペプチドSubstance Pの検出感度は100 fmol程度でありMALDI法に比べて検出感度が低く、またm/z2000以上のペプチドの検出が困難とされている。そこで、Au-SALDIの特性向上には、基板上に担持する金ナノ粒子の固定化と金ナノ粒子の分散制御が重要と考えられる。そこで、高分子を利用した交互積層法により金ナノ粒子凝集体の積層化を行うことにより、従来のAu-SALDIの問題点を克服するとともに、更なる高感度化を実現することに成功した。金ナノ粒子積層基板によるペプチドや環境化学物質のSALDI-MSへの応用について検討を行った。さらに、酸化物ZnOのナノ粒子を利用したSALDIではPMMA、PPG、PSなどの合成高分子に対して分解イオンのないソフトなイオン化法であることを見出した。
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