研究概要 |
本研究では、リン酸エステルのP=O酸素原子を硫黄またはセレン原子に置き換えた誘導体、なかでもビナフチル基を有するものを新しいキラル分子ツールとして開発することを目指し、以下の成果を得た。 まず塩基存在下、1,1'-ビ-2-ナフトール、三塩化リンおよび粉末セレンを反応させることでセレノリン酸塩化物を高収率で得た。これに対して様々な炭素数の脂肪族2級アルコールを反応させてエステルとした。いずれの場合も二つのジアステレオマーをほぼ同じ程度の比で与えた。しかもそれらを31Pおよび77Se NMRスペクトルで区別することができた。またその化学シフトが観測される位置について一般的な傾向を見いだした。これを用いることで、ジアステレオマーの絶対配置さらにはそれを導くキラル2級アルコールの絶対配置を類推する方法を提供できた。実際には1-アリール-2-プロパノールを対象に、芳香環に異なる置換基が導入された誘導体のリン酸エステルを調製し、31P,77Seに加えて1H,13CNMRの化学シフトを一覧にした。それをもとに絶対配置が決定されていなかった1-(4-フルオロフェニル)2-プロパノールの絶対配置を決定した。またエステルと過剰のBuLiとの反応はP-O結合の切断を伴って進行し、対応するアルコールを切り出すことができる。これを用いて再結晶などによって光学純度を向上させたエステルから光学活性1-(4-フルオロフェニル)2-プロパノールも単離することができた。ただしこの絶対配置決定法は、類似の置換様式を有するアルコールからエステルを合成し、先に示した四つのNMRの一般的な傾向が同じであることを示した後に、絶対配置が未決定な誘導体に適用しなければならない。アミド、エステルなどのカルボニル基を有するアルコールに適用する場合には注意を要することもわかった。
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