本研究は、無機骨格由来の独特な光化学特性を示す「半導体性CdSクラスター」の表面に有機機能団を導入し、表面部とゲスト化合物との相互作用を通じて「色(吸収)」や「発光」の変化で応答するセンシングシステムを創製することを目的としている。昨年度までは、クラスター表面フェニル基に親水性のポリエチレングリコール鎖が直結された一連のクラスターを合成し、金属イオンとの錯形成およびそれにともなう発光増強に関して、添加量と発光強度の相関を詳細に調べてきた。本年度は、ターゲットに環境ホルモン類を含む疎水性の有機ゲストをターゲットにしぼり、そのための表面置換基のデザインを行った。具体的には、水溶液中で疎水性相互作用を利用してクラスターの無機骨格近傍に有機ゲストを捕捉するために、フェニル基とポリエチレングリコール鎖の間に長鎖アルキル基を導入した。得られた疎水ポケット部位を有する親水性クラスターを用いて、水溶液中の微量の環境ホルモン類の発光センシングの可能性を探ったところ、プラスチックの可塑剤に使われるノニルフェノールや、ポリカーボネートのモノマーであるビスフェノールAに対して、小さいながら明確な正の発光応答を示すことを見いだした。一方、昨年度まで用いてきたアルキル鎖ユニットをもたないクラスターでは、全く発光応答は観察されなかった。今後、表面有機基のデザインをさらに進めることで、高感度かつ高選択的な疎水有機物センシング系を開発し、環境ホルモン類などの検出に応用して行く。
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