本研究は、半導体的特性のために独特な可視発光を示す硫化カドミウムクラスターの表面に、外部物質を捕捉するサイトとしての機能を担う有機機能団を合目的的に導入し、表面部とゲスト化合物との相互作用を通じて「色(吸収)」や「発光」の変化で応答するセンシングシステムを創製することを目的とした。これまでの研究では、水溶液中で特異的に働く疎水性相互作用を利用してクラスター無機骨格近傍に親油性有機ゲストを捕捉するための分子設計を行い、親水性のポリエチレングリコール鎖と無機骨格の間にアルキル鎖を導入したクラスターを合成した。こうして得られたクラスターを用いて種々の有機分子に対して応答性を調べたところ、アルキル鎖ユニットによって十分に疎水的な環境が提供される場合には、プラスチックの可塑剤に使われるノニルフェノールや、ポリカーボネートのモノマーであるビスフェノールAなど、いわゆる環境ホルモンとして疑われる親油性フェノールに対して選択的な応答が得られることがわかった。アルキル鎖長などゲストを捕捉する有機部位の構造に注目し、その最適化を行ったところ、炭素数が6~8程度の時に最も良好な応答性が得られることがわかった。さらに、一連のコントロール実験を行い、疎水性相互作用が極めて重要な役割を果たしていることを立証するとともに、フェノール性水酸基をもつ化合物が特異的に発光応答をもたらすことを明らかとした。またこれに加えて、ビスフェノールAとクラスターとの相互作用について分光学的な検討を進め、疎水性相互作用に加えて表面有機基に導入したアミド基とフェノール性水酸基との間の水素結合が重要な役割を果たしていることを示すことに成功した。
|