研究概要 |
新規チオホスホン酸系光学分割剤の合成とキラル織別能の検討:本研究の準備期間中に合成しそのキラル織別能を検討したチオホスホン酸系光学分割剤が形成する難溶性ジアステレオマー塩のX-線結晶構造解析の結果を基に,より高いキラル識別能の発現を期待して環状チオホスホン酸を設計し,合理的な合成法を開発した。さらに,そのキラル識別能を調べたところ,多くのチオホスホン酸系光学分割剤によって認識される2-アリールアルキルアミン類のキラリティーは識別できないが,チオホスホン酸系光学分割剤では認識できない脂肪族アミン,アミノアルコールのキラリティーを認識できるという特異な現象を見出した。現在,X-線結晶構造解析に基づくキラル識別機構の解明を進めている。 新規チオホスフィン酸系光学分割剤の合成とキラル識別能の検討:チオホスホン酸のエステル原子をメチレンに置換したチオホスフィン酸を合成し,それらを用いる2-アリールアルキルアミン類に対するキラル識別能を調べた。その結果,チオホスフィン酸はある程度のキラル識別能を示したが,チオホスホン酸のキラル識別能と比較して全般にやや劣り,難溶性塩がクラスターになるものはないことも分かった。チオホスホン酸とチオホスフィン酸の挙動の差を説明するためにX-線結晶構造解析を行なったところ,チオホスホン酸の場合にはエステル原子が弱いながらも分子間相互作用に寄与していることが分かり,酸性分割剤の設計にとって重要な知見が得られた。 キラル窒素を有するモノアミンの合成と単一エナンチオマーの単離:単純な構造でありながらN-キラルなモノアミンの合成を試みた。ターゲット分子として(E)-N,1-(ヘプト-2-エン-1,7-イレン)-9,10-ジヒドロアントラセン-9,10-イミンを設計し,メタセシスを鍵反応とする7段階の反応で合成することができた。各ステップの収率は良好であった。反応生成物を分取用HPLCで精製したところ,純粋な(R_N,9R,10S)-(E)-体が得られた。このエナンチオマーのステレオダイナミックスを調べたところ,化合物は殆ど歪みエネルギーを持っていないにも拘わらず,120℃でもN-キラリティーの反転が起こらない特異な化合物であることを見出した。計算機化学手法によってその理由を調べたところ,ポテンシャルエネルギー的に(R_N,9R,10S)-(E)-体は反転体よりも4.3kcal/molも安定であるために熱力学的に反転体が生成せず,この安定性はHOMOにおけるN-C(鎖)σ-軌道とフェニレンのπ軌道の相互作用に由来することが分かった。
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