研究概要 |
我々の長年の研究によって,難溶性ジアステレオマー塩の結晶構造は分割剤の基本骨格に大きく依存することを明らかにしてきた。更に,昨年度までの研究によって,キラル官能基を有する分割剤を用いたときのみ,今まで一般に見られた無限系の21カラム構造ではなく有限系のクラスター構造となる場合があることを見出している。 そこで本年度は,この現象をより明確にするため,環状チオホスホン酸反転不能モノアミンおよびビス(ヒドロキシアミン)をデザインし,それらの合成と光学活性体の入手を試みた。さらに,環状チオホスホン酸およびビス(ヒドロキシアミン)のキラル識別能を調べた。その結果,以下のことが分かった。 (1)分子内エステル化と選択的ジエステル脱アルキル化を鍵反応とする7員環チオホスホン酸(ラセミ体)の合成経路と,そのジアステレオマー塩法による光学分割法を確立した。さらに,光学活性7員環チオホスホン酸は,今までキラル識別が困難であった脂肪族アミノアルコール類を含む多くのキラルアミノアルコールのキラリティーを認識できることを見出した。 (2)7-アザジベンゾノルボルナン誘導体に対して,非対称となるようオレフィンメタセシス反応を利用して更に橋掛けをすることにより,3環性第三級アミン(ジアステレオマー混合物)を合成し,キラルHPLCによって単一の光学活性体を入手した。計算機化学的手法によって求めたラセミ化の活性化エネルギーはラセミ化を阻止できるほど大きくなかったものの,2種の窒素反転体間の生成エネルギー差は充分に大きく,120℃においても一方の異性体が99%以上存在していることを明らかにした。 (3)キラルプール法によって,光学活性ジヒドロキシビス(ヒドロキシアミン)およびジァルコキシビス(ヒドロキシアミン)を合成した。これらの化合物はキラルカルボン酸に対してキラル識別能を発現することを見出した。また,幾つかの難溶性塩についてX-線結晶構造解析を行なった結果,水素結合ネットワークは,21カラム構造やクラスター構造ではなく,シート構造であることを明らかにした。
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