研究概要 |
結晶固体中でのラジカル分子の配列を制御するための新しい方策として,核酸塩基に特有の選択的水素結合能を安定有機ラジカルに付与するbio-inspired approachを考案した.ウラシルとジアミノトリアジンを導入した核酸塩基置換モノラジカルとビラジカルを合成した.これらは,化学的に安定であり,なおかつ特有の相補的水素結合能を有するbuilding block分子になる.ジアミノトリアジン誘導体については,単結晶として単離し,X線結晶構造解析で分子構造を決定することに成功した.さらに,ESR/1H-ENDORスペクトルの測定により,分子内のスピン密度分布を決定し,水素結合錯体内で磁気的自由度を保持することが期待できるラジカル種であることを明らかにした. さらに,有限スピン系の分子配列制御法の開拓を目標に,分子スピン集積系の構造プログラミングとして,スピン導入型核酸塩基を用いて,オリゴヌクレオチド(ODN)を鋳型としたラジカル種の配列制御を試みた.最小構造のモデル系として,3本のODNからなる3鎖系2重鎖を分子会合場とする2分子(2スピン)配列系を設計した.3鎖系ODNの紫外可視吸収スペクトルの温度変化の測定より,2重鎖の融解温度が室温に較べて充分に高いことを明らかにした.さらに,ニトロニルニトロキシド置換のウラシル誘導体と3鎖系ODNの錯体についてESR禁制遷移を観測し,ウラシルニ量体による熱励起3重項に帰属した.この結果は,ウラシル誘導体がODN上で最近接で配列したことを示しており,非共有結合的な構造プログラミング(核酸の塩基配列特異的な分子集積化)が可能であることを意味している.
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