研究概要 |
DNAの塩基配列は,小分子を位置選択的に並べかつ集積するための場としてみなすことができ,構造制御のための分子設計可能なテンプレートとして活用できると考えられる.DNAに結合する機能性小分子として,不対電子持った安定ラジカルを用いることで,分子レベルで構造制御されたスピン集合系をDNA上で構築することができ,DNAを磁気機能化することが可能となる.本研究では,特定の塩基配列に位置選択的に結合する性質を安定ラジカルに付与したナフチリジン置換ニトロニルニトロキシドラジカル(NCDPhNN)を合成した.NCDPhNNの母体であるnaphthyridine carbamate dimer (NCD)は,5'-CGG-3'/5'-CGG-3' triadにおけるG-Gミスマッチ塩基対に対して特異的に結合する合成小分子として開発されたものであり,NCD:triad=2:1の量論比で結合することが知られている.NCDPhNNとDNAとの結合を評価するために,融解温度(Tm),CDスペクトル及びESRスペクトルの測定を行った,G-Gミスマッチ塩基対を含む二重鎖(11-mer)の融解温度(Tm)は,その他の塩基の組み合わせに較べて13□も高かった.CDスペクトルによるtitrationでは,誘起CDバンドの強度(ellipticity)がNCDPhNNの濃度とともに増大した.エキシトンバンドのヨブプロット解析から,NCDPhNNと,5'-CGG-3'/5'-CGG-3' triadは2:1の量論比で結合していることがわかった.ESRスペクトルでは,ラジカルの窒素核14Nに典型的な超微細分裂が観測されたが,磁気量子数mIに依存する線形の顕著な広幅化が見られた.スペクトルシミュレーションによる線形解析から,ラジカルの回転相関時間は,オリゴヌクレオチドが共存する溶液中ではラジカル単独の場合に較べ10倍以上増大することが明らかになった.これらの結果から,NCDPhNNはNCDと同様の結合モチーフでDNAに結合していると結論した.
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