研究概要 |
本研究グループで合成に成功した新しい屈曲型ドナー分子、テトラチアフルバレノキノン(チオキノン)-1,3-ジチオールメチドは、(1)高い電子供与能、(2)末端位にある1、3-ジチオール基のS原子上にも大きな電子密度を有するHOMO、そして(3)分子骨格の中央部で大きく屈曲しているために電子密度分布が非対称となり、分子面内に3-7デバイの大きな双極子モーメントが存在するなどの特長を持っている。本研究課題では、この屈曲型ドナー分子の持つ上記の特長を生かして、(1)伝導性π電子と局在dスピンとが強く相互作用する強磁性の半導体や金属、そして(2)ディスク型とバナナ型の中間の分子構造を有する新しい液晶化合物のそれぞれの開発を昨年度に引き続いて検討した。(1)については、昨年に見出した、金属伝導性と強いπ-d相互作用に基づくdスピンの反強磁性秩序化するSe原子を含む屈曲型ドナー分子とFeBr_4^-イオンの2:1塩の磁気抵抗の異方性と圧力効果について検討し、この強いπ-d相互作用の電子構造を明らかにした。また、種々の新しい屈曲型ドナー分子のFeX_4^-(X=Cl、Br)イオン塩を作成したが、いずれの塩においても期待した金属伝導性と強磁性の同時の発現に成功していない。しかし、エチレンジセレナー1,3-ジチオール基を導入した屈曲型ドナー分子とFeCl_4^-イオンの2:1塩は、45S cm^<-1>の高い室温電気伝導を示す太さが約5nmのナノワイヤとして得られた。容易に得られるこの高伝導性ナノワイヤは分子ナノデバイスへの応用が期待される。一方、(2)については、4つのデンドリマー型の置換基を導入した屈曲型ドナー分子を作成し、その示差走査熱量の測定により液晶相の存在を認めた。FET装置を用いて得られた、この液晶型半導体のホール移動度は比較的高い約3×10^<-2> cm^2 V^<-1> sec^<-1>であった。この液晶相の電場による動作については現在検討中である。
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