研究課題
平成21年度はa型の構造をもち、バンド幅の異なるBEDT-TTF塩の電荷に敏感な赤外およびラマン活性バンドの線幅を解析して、金属相における電荷秩序ゆらぎに関する情報を得た。金属絶縁体転移を示し、バンド幅の比較的狭いa-(BEDT-TTF)_2I_3の電荷鋭敏振動バンドはバンド幅が広く安定な金属相を持つα-(BEDT-TTF)_2NH_4Hg(SCN)_4の電荷鋭敏バンドに比べて線幅が2倍以上広い。このことから、a-(BEDT-TTF)_2I_3の電荷が熱ゆらぎによって平均の電荷の周りを動的に揺らいでいると結論した。ラマン活性な電荷鋭敏バンドの振動数がガウス過程でゆらいでいるという模型をもちいてゆらぎの速さを1-22cm-1と推定することができた。また、遠赤外領域までの光学電気伝導を測定し、この物質の金属相がゼロエネルギーピーク(ドルーデピーク)をもたない、つまり、過減衰状態にあることを明らかにした。この状態は、熱ゆらぎによって電子が強く散乱されているという状況と一致する現象である。α-(BEDT-TH)_2NH_4Hg(SCN)_4の線幅は狭いとはいえ、他の電荷に敏感ではないエチレン基の変角振動バンドに比べると幅広い。このことは、安定な金属相をもつα-(BEDT-TTF)_2NH_4Hg(SCN)_4もゆらぎの影響を受けていることを示している。電荷秩序ゆらぎについては従来X線回折を用いて議論されてきたが、a型のBEDT-TTF塩は電荷秩序状態で超格子を作らないためにゆらぎの情報を得るのにX線回折法を使用することができないために、ゆらぎについては理論的な示唆はあるものも実験的には捉えられていない状況であった。この研究では分子のもつ電荷に応じで共鳴周波数を大きくシフトする電荷鋭敏バンドを用いてゆらぎに関する実験的な証拠を得ることができたところに意義がある。
すべて 2010 2009 その他
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件) 学会発表 (33件) 備考 (1件)
J.Phys.Soc.Jpn. 78
ページ: 044701(10)
Angew.Chem.Int.Ed. 48
ページ: 5482-5486
Phys.Rev.B 80
ページ: 092508(4)
J.Raman Spectrosc 40
ページ: 2092-2098
ページ: 174506(5)
J.Phys.Conf.Ser 148
ページ: 012007(4)
ページ: 012004(4)
ページ: 012039(4)
http://www.ims.ac.jp/know/material/yakushi/yakushi.html