平成21年度は、これまでに開発したハロゲン化多環芳香族炭化水素(PAH-X)の分析法を用いて、PAH-Xの測定感度について検討した。PAHを負化学イオン化(NCI)法でイオン化し、質量分析すると、電子衝撃イオン化(EI)法と比べて、PAHの種類によりその感度が大きくことなることが判った。例えば、3環系のアントラセンとフェナントレンを分析すると、EI法では両者の感度はほぼ等しいのに比べ、NCI法では、フェナントレンはほとんど分析できないほど感度が悪くなる。そこで、これまで、GC/MSでは分離、定量できなかったこの両者の混合物を、EI法とNCI法の両方で分析することにより、分離できなくても各化合物とも定量できることが判った。同様に、ペリレンなどは感度が悪く、ほとんど分析できないこと、フェナントレンの1塩素化体・2塩素化体も同様にNCI法では非常に感度が悪いことが判った。このように、NCI法でのPAH分析には、選択性が大きく、これを使用することにより、分子量が同じ物質でもより確実に定性・定量しうることが考えられた。 次に、塩素系プラスチックを電気炉内で燃焼する条件を変えて、生成物を分析する手法を確率し、その手法を基に生成物の解析を行った。塩素系プラスチックには、いろいろな種類があるが、そのうちの1つである、塩化ビニリデンは、200℃くらいで蒸発し、この場合にPAHをほとんど生成しないことから、PAHを生成する熱分解条件を検討した。その結果、あらかじめ炉内を加熱しておき、そこにプラスチックを素早く挿入する手法で、燃焼可能であることが示唆された。これを用い、また、窒素雰囲気下、空気雰囲気下でどのような生成物が得られるか、検討した。この結果、数種のPAH-Xが得られ、塩化ビニルの熱分解では、環化反応がまず起こることが示唆された。
|