本研究は糖鎖とシャペロンの結合を利用した全く新しい細胞ストレス検出法を確立することを目的としている。そのためのプローブとして、蛍光によって高感度に検出可能な半導体量子ドットを用いた。まず糖鎖提示量子ドット(CdTe)が、細胞にストレスを付加した際に細胞内に蓄積するかどうかを、ジキトニン処理した細胞を用いて検討した。その結果、糖鎖提示量子ドットの結合量とストレスタンパク質HSP70ファミリーの発現量は比例関係が見られ、糖鎖を用いたストレスセンシングの可能性をつかんだ。この細胞実験を生きている細胞で行うことを目指して、より低毒性で安定な粒子表面修飾の検討を行った。具体的には、低毒性に加え高い安定性、蛍光強度の増加が見込めるZnSシェルの付加を当研究室内で確立した。合成したCdTe/ZnSコアーシェル量子ドットは脂溶性であるので、これを表面交換反応により水溶液への再分散、および糖鎖の提示にも成功した。これにより、より安定的に蛍光観察が可能となるばかりではなく、生きた細胞内でも長時間の観察が可能になると思われるため、今後は合成した糖鎖提示CdTe/ZnS量子ドットをマイクロインジェクション法などによって細胞内へと導入し、ストレス曝露時に細胞および粒子がどのような影響を受けるかを検討する予定である。さらに一連の実験の経過で、マルトトリオースを提示した量子ドットが予想に反して細胞核に移行することがわかった。この現象は今までに報告例がないばかりでなく、遺伝子導入に転用できるため、速報として論文発表するに至った。
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