研究概要 |
本年度は大腸菌のO_2分子センサーで、3'.5'-cyclic diguanylic acidのリン酸ジエステル化酵素活性を持つDOS蛋白(Ec DOS)を調べた。この蛋白では、N末端側にあるFe(II)ヘムにO_2,CO,或はNOと云った2原子分子が結合すると,C末端側にある触媒部位での活性は高くなるが,高くなり方は結合する分子種により異なる。EcDOS蛋白がどのようにして2原子分子を識別し、その検出を触媒部位に伝達しているかについて,リガンド結合によるヘムの構造変化を可視共鳴ラマン分光法で、蛋白部分の構造変化を紫外共鳴ラマン分光法で検出した.具体的な戦略として,活性のある野生株蛋白と,重要と思われるアミノ酸残基を1つずつ別のアミノ酸に置換した変異蛋白のラマンスペクトルを比較し,一方でその蛋白の酵素活性を見るという方法をとった。ラマンスペクトルの測定には,ヘム含有ドメイン(147残基、DOSHと略す)を用い,活性測定には全長の蛋白を用いた.DOSHには2個のTrpと5個のTyr残基が含まれ,部位特異的アミノ酸置換でそれらのラマンバンドの帰属をした。紫外共鳴ラマンスペクトルより明らかになった事は、2原子分子の種類によりDOSH蛋白部の構造変化が異なる事である.例えば,2-ビニル基の近くにあるTrp53はO_2結合でより疎水環境に移るが,CO結合では親水的環境に移る.そして、W53F変異体のリガンド結合形は野生型より活性が低かった。ヘムにO_2が結合するとTyr126とAsn84間に強い水素結合ができ、ヘム側鎖プロピオン酸基の構造変化がそのAsn84との水素結合を通じてTyr126にO_2結合を伝達する事がわかった.CO結合形のCO光乖離による蛋白構造変化のダイナミクスを時間分解ラマン法で調べた.Arg97とPhe113の変異体はCO光乖離後のMet95のヘムへの過度的配位に強い影響を与えた。此の事からArg97側鎖の静電相互作用とPhe113側鎖の立体障害がCO光乖離後のMet95とCOの競争的再結合を制御している事が想像された.これらの観測から,ヘムから蛋白への情報伝達に対するモデルを提案した.
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