近年、π(パイ)共役系を有する分子は、その機能性のみならず、稀少元素の代替材料としての可能性についても大きな注目を浴びている。イオウ、セレン、テルル、窒素、リンなどのヘテロ元素は、国内生産量も多く、これを用いた化合物は重要な製品として位置付けられている。本研究では、これらの元素を複合化させた広範なπ共役系を有する新規ヘテロ原子複合発光材料を開発することを目的としている。これまでの研究の結果、アセチレン骨格へのヘテロ元素導入については、イオウ、セレン、テルル、窒素、リンの選択的な導入が可能となっただけでなく、含窒素化合物の複合同時導入反応、リン-ヨウ素複合系を利用した選択的ビニルヨージドの合成も可能となった。物性調査として、本反応系を適用することによって得られるフェロセン-イオウ複合体、フェロセン-セレン複合体について、酸化還元電位を測定した結果、共役系と連接したヘテロ原子が物性に大きく影響を及ぼすことが明らかとなった。 本年度は申請計画に沿って、昨年度明らかとなった金属配位による蛍光特性をさらに拡張するために、より広範な共役系分子の構築を行うとともに、環境への負荷を低減するために、アミノ酸を用いた発光性分子の構築も行った。その結果、ヘテロ元素を複合した新しい発光性環状化合物の合成に成功し、緑色から青色の発光を確認した。また、この研究をベースに、ナフタレンジチオール製造企業と共同研究を行い、共役系をナフタレン骨格に拡張することにも成功した。さらに、アントラキノンへのシステイン導入による生体分子由来の新規発光性化合物の合成も可能となった。これらの結果に基づき、企業共同研究も含めた実用的発光材料への展開を行っている。
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