研究課題
本研究は、表面が分子スケールで平坦な「有機単結晶フィルム」を積層したハイブリッド構造の界面に新たな機能を有する電子伝導面を構築することを目的としている。3年計画の初年度である19年度には、有機半導体の単結晶フィルムと絶縁性の有機単結晶フィルムを組み合わせて、結晶性の有機物界面を形成することによって、高移動度の電界効果トランジスタ機能を発現することを計画した。実際に、ルブレン分子を用いた単結晶フィルムを半導体層とし、ジフェニルアントラセン分子を用いた単結晶フィルムをゲート絶縁層として用いる単結晶ヘテロ接合を作製し、さらに有機半導体をゲート絶縁層で上下から挟み込む、ダブルゲート構造を構築した。その結果、ダブルゲートトランジスタの2つゲート電界を調節して、結晶表面よりキャリアの散乱が少ない結晶中央部にキャリアを分布させた場合、これまで有機トランジスタで最高の移動度が実現することを明らかにした。また、同様に作製した単結晶トランジスタにおけるキャリア伝導の磁場効果(ホール効果)を精密測定した結果、キャリアが結晶の表面ではなく、内部に分布していることにより、高移動度を実現するメカニズムを明らかにした。即ち、界面準位密度を最小限にしたことによって、電界が単結晶の表面トラップ電荷によって終端されることなく結晶内部に到達し、不規則ポテンシャルによる散乱が少ない内部キャリアを利用できたために、自由な電子がバンド的に伝導する高キャリア移動度が得られたと考えられる。本研究では、有機単結晶を用いることによって、有機半導体本来のキャリア伝導性能が一般的な有機薄膜多結晶トランジスタよりはるかに高く、その伝導は低温でも本質的には失われないことが明らかになった。有機トランジスタの2次元電子系において、こうしたバンド的な伝導が得られたことは、今後新奇な低次元電子系を物質界面に構築する研究の基盤となる。
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