X線領域の位相コントラスト利用は、弱吸収物体の観察を容易にすることから、生体軟組織や高分子材料の観察を可能とする。X線トモグラフィと組み合わせることにより高感度三次元観察も可能である。X線位相利用イメージングは、このようにコントラスト分解能が大幅に向上するという利点があるが、同時に空間分解能も重要な要素である。本研究は、微分位相コントラストを生成するX線Talbot干渉計を結像型X線顕微鏡と融合させることにより、コントラスト分解能と空間分解能の両方において優れたイメージング手法の開発を目論んだ。 開発した光学系は、X線結像素子であるフレネルゾーンプレートと、X線Talbot干渉計を構成するX線位相格子および振幅格子からなる。SPring-8のビームライン20XUに設置して実験を行った。約9keVのX線に対して倍率約20の顕微鏡を構成し、X線画像検出器の上流に上記2枚の格子を配置した。通常のX線Talbot干渉計では空間分解能15μm程度の観察が行われるのに対し、本手法により空間分解能約1μmに改善された。試料を回転して複数の方向から撮影することにより、三次元画像再結成(位相トモグラフィ)も可能とした。 本装置を用いて、高分子混合系の相分離構造の観察に成功した。また、慶応大学との共同研究として、骨細胞観察にも応用している。画像再構成法の改善や画質および空間分解能のさらなる向上はより広い応用を誘起するので、今後このための研究開発努力を続け、さらに高度な応用実験も行う予定である。
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