本研究目的では、極短パルスレーザーを用いて、物質内部にコヒーレントなフォノンを誘起する。このことによって、物質の熱力学的、光学的、電気的性質をコントロールすることが、究極の目的である。しかし、フォノンのコヒーレンスを測定するうえで、物質の構造やその中でのフォノンのコヒーレンスがどのように振舞うかについての知見はあまり解明されていない。理論的に、結晶構造と、フォノンのダイナミクスは時間分解X線回折法によって測定される。従来、フォノンの測定はラマン散乱法、中性子散乱法などが知られているが、コヒーレントフォノン測定には、結晶構造、やブリルアンゾーン全体を見渡せる測定法が必要で、この意味から、ラマン散乱法は適さない。しかし、現状では中性子散乱法には十分な時間分解能はない。唯一可能な方法が時間分解X線回折法である。この装置開発を行いながら、測定法の最適化によって、コヒーレントフォノンの測定に必要な周波数測定に成功した。コヒーレントフォノンを用いた、非熱力学的構造相転移には至らなかったものの、ダイナミクス測定に不可欠な構造情報を得るため、広角散乱時間分解X線回折法の提案を行うと共に、その予備実験に成功し、空間的なコヒーレントフォノンの描像をとらえることができる可能性を示した。広角散乱時間分解X線回折法は、従来の測定法が、特定の逆格子ベクトル方向に限られていたのに対して、異なるベクトル方向をフェムト秒でとらえることができる、つまり、3次元的にフォノンの振る舞いを測定できる可能性を秘めた手法で、コヒーレントフォノンの異方性を調べることができる。この測定法は、これまでとはまったく違った概念を与えてくれるものであり、今後の展開が期待できる。
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