液晶やゲル、ミセルや分子膜など分子集合体が形成する生体系などの複雑流体は、自己組織化的に高度に秩序化された内部構造を形成する。これらの物質群はソフトマテリアルとも呼称されるように、温度や電場・磁場などの外的刺激に応じて容易にその構造を変化させ、さまざまな機能を発現する。近年、これらの性質を新しいミクロデバイス材料へと応用しようとする試みが盛んに進められている。本研究の目的は、我々がこれまでに培ってきた微小液滴の吐出・衝突・融合化技術ならびにその変形・回転運動の高時間分解能観察手法を用いて、μmサイズの流体のレオロジー物性を研究する「超高速変形ナノレオロジー計測工学」を創生し、その基本要素技術を産業界における汎用の計測ツールとして供与することを目的とする。 本年度はこれまでに開発した技術を用いて、比較的低分子の液体が示す高歪域での力学緩和現象を観察し、さらにピコリットル領域における非平衡化学反応の分子レベルでの観察を行った。この技術は、これまでの平衡化学等量点で議論されてきた化学反応の記述を大きく転換し、また産業上もピコリットル反応場の実現が可能になるという、本研究の展開上大きな成果を与える可能性のあるものである。さらに様々な化学反応において、それが動的に進行する画像データを蓄積し、観察される現象が我々の非平衡化学反応の理論によって説明できることを確認した。
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